3歳児神話という言葉を知っていますか?
3歳児神話は、一昔前までは子育ての常識のように受け止められており、保育士や保健師から3歳児神話に基づく子育て指導がなされることも珍しくありませんでした。
最近は、保育士などから3歳児神話に基づく指導を受けることはほぼありませんが、祖父母世代の育児経験者から、3歳児神話に基づく子育ての持論を聞かされる人は少なくないようです。
3歳児神話とはどのようなものなのでしょうか。
また、3歳児神話に基づく指導がなくなった理由は何でしょうか。
この記事では、3歳児神話の概要、賛成・反対意見について紹介します。
3歳児神話とは
3歳児神話とは、子どもの成長にとって大切な生後3歳までの時期はママが子育てを行うべきであり、この時期にママが子育てに専念しないと、子どもの成長・発達に悪影響を及ぼすという考え方です。
一昔前までは子育ての常識のように捉えられていました。
しかし、女性の社会進出が進むにつれて、子育てを女性に押し付け、女性の就業と子育ての両立を妨げる考え方だという批判が強くなったことで鳴りを潜め、現在は、3歳児神話に基づく子育て指導が行われることはほぼなくなりました。
3歳児神話が広まった原因
3歳児神話が広まった発端は、1952年、イギリスの精神科医であるジョン・ボウルビィが、WHO(世界保健機関)の依頼に応じて作成した「母子関係理論」という報告書です。
この報告書には「3歳未満の発達初期に精神的な障害を受けた子どもは、生涯その傷を癒すことができず、社会的に不適応な行動を行うようになる。」という趣旨の内容が記載されています。
母親が育児に専念して終業を諦めることを勧めたり、家庭における子育てと社会内保育の優劣を論じたりする内容ではありませんが、当時の夫婦や家族に対する価値観によって誤って解釈された結果、3歳児神話として世界的に広まってしまいました。
日本では、元々は大家族や地域のつながりの中で子育てが行われていましたが、高度経済成長に伴って核家族化や地域との関係希薄化が進行し、「男は仕事、女は家庭」という性別による役割が規定されたことで、3歳児神話が浸透しました。
厚生労働省は3歳児神話を否定している
厚生労働省は、1998年度の「厚生白書」で、「子どもは3歳までは、常時家庭において母親の手で育てないと、子どものその後の成長に悪い影響を及ぼす」と考える意識、いわゆる「三歳児神話」には「少なくとも合理的な根拠は認められない」と記載し、3歳児神話を否定しています。
厚生白書では、母親の就業の有無が幼少時の子どもに与える影響を調査した結果、3歳児神話の根拠となる因果関係は見つからなかったとされています。
なお、当時は、少子化が社会問題として注目を集め始めており、その原因と言われる晩婚化や未婚化への対策として、女性のみに子育てを押し付ける3歳児神話を否定したと考えられます。
つまり、3歳児神話が浸透したのも否定されたのも、当時の社会情勢が色濃く影響していると言えます。
3歳児神話に含まれる3つの考え方
現在、3歳児神話は、一昔前の子育ての悪しき考え方だと捉えられ、全否定されがちです。
しかし、3歳児神話にはいくつかの考え方が含まれており、その一部は子育てにおいて忘れてはならない重要なものです。
3歳児神話に含まれる考え方は、以下のとおりです。
- 生後3歳までの過ごし方が子どもの成長にとって重要である
- 性別的に子育ての適正があるママが子育てに専念すべきである
- ママが就業などで生後3歳まで子育てに専念しなかった場合、子どもの成長に悪影響を及ぼす
重要なのは1.の考え方です。
生後3歳頃までは、周囲から愛情を注がれ、たくさんお世話をしてもらうことで、自分が大切な存在であることを自覚し、他人を信頼する気持ちを育む時期です。
一方で、注がれるべき愛情は、子どもに寄り添い、受け入れてあげる類のものであり、必ずしも女性だけが担うことができるものではありません。
2.や3.の「ママが」という点については、必ずしも当てはまらないと言えます。
3歳児神話の賛成と反対
3歳児神話は、厚生労働省が否定する考えを示して以降、反対(否定)意見が主流になっています。
3歳児神話の賛成(肯定)意見
3歳児神話の賛成(肯定)意見としては、ママが8歳まで子育てに専念すべきというものや、性別による子育て適性の存在を肯定するものなどがあります。
3歳児神話の反対(否定)意見
3歳児神話の反対(否定)意見としては、子どもが生後3歳未満でママが職場復帰したことと子どもの発達には関係がないとする追跡調査の結果が複数あります。
ただし、賛成意見も反対意見も明確な根拠が示されているわけではありません。
3歳児神話と保育園
厚生労働省が3歳児神話を否定した後、公的な場で3歳児神話に基づく子育て指導が行われることはほぼなくなりました。
一方で、冒頭に書いたとおり、3歳児神話に基づいて子育てをしてきた世代からは、「ママは子育てに専念すべき。」、「保育園なんかに入れたら良い子に育たない。」という指摘を受けることが少なくありません。
しかし、ママが就業できないことにストレスを抱えながら子育てに専念すると、子どもにも意識的無意識的にそれが伝わり、良い影響は与えません。
それよりも、子どもを保育園に預けて日中は気持ちよく働き、帰宅後は親子で過ごす方が、ママにとっても子どもにとっても健康的な生活が送れるはずです。
また、日本の乳幼児保育は世界的に見ても高い水準にあるため、たいていの場合は「保育園に入れたから子どもが問題ばかり起こすようになった。」ということにはなりません。
子育てに専念するか、子どもを保育園に預けて働くかは個人の選択ですが、夫婦でよく話し合い、ママと子どもがより快適に過ごせる方を選ぶことが大切です。
まとめ
3歳児神話について紹介しました。
ママが子育てに専念することは悪いことではありません。
しかし、女性の社会進出が進み、経済的な事情のみでなく、社会的つながりや自己実現のために就業を続けたいと望む女性が増え続けている状況においては、女性だけに子育てを押し付ける3歳児神話の考え方は受け入れられなくなっています。
今後は、これまで以上に、性別にこだわらず、夫婦で協力しながら子育てに取り組むことが求められることになるでしょう。