「モーツァルトの音楽は胎教に良い」、「子供に音楽を聞かせると頭が良くなる。」という話を聞いたことはありませんか?
音楽が赤ちゃんや子供に良い影響を与えるという考えは以前からあり、胎教や幼児教育に取り入れられてきました。
また、2000年頃からは、欧米から輸入されたリトミックという音楽を使った知育法・教育法が、全国規模で注目を集めるようになっています。
しかし、音楽が子供に与える具体的な影響についてはあまり知られていません。
また、「モーツァルト効果」のように、うわさが一人歩きしただけで、実際は効果がないことが明らかになっているものもあります。
この記事では、音楽が子供の脳に与える影響(脳育)、赤ちゃんや子供に音楽を聴かせる方法、赤ちゃんの好む音楽について紹介します。
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音楽を聴くと頭が良くなる?
まず、「音楽を聴くと頭が良くなるのか。」という疑問から見ていきましょう。
音楽が子供の脳に与える影響については、これまで様々な研究が行われ、新しい知見の発表と、それを否定する発表が繰り返されてきました。
中でも有名なのが、かつて日本でも流行した「モーツァルト効果」と、カナダのマックマスター大学が発表した研究結果です。
モーツァルト効果は否定されている
モーツァルト効果とは、モーツァルトなどクラシック音楽を聴くと頭が良くなるという効果のことです。
モーツァルト効果は、アメリカの大学が1990年代に発表した「モーツァルトのピアノソナタを聴かせた学生の方が、何も聴かせない、もしくは、他の音楽を聴かせた学生よりも、テストで良い成績を獲得した。」という研究結果で初めて発表されました。
それが、当時の誇大広告や宣伝によって、「クラシック音楽を聴くと頭が良くなる。」と拡大解釈されて社会に広まってしまったのです。
その後、モーツァルト効果を否定する研究結果がたくさん登場し、2007年には、ドイツ教育省が「モーツァルト効果は存在しない」という研究結果を発表しました。
現在は、音楽を聴くだけで頭が良くなるという考えは否定されています。
ただし、否定されているのは、「音楽を聴くだけで頭が良くなる」ことで、音楽学習が頭に与える影響まで否定されているわけではありません。
マックマスター大学の研究結果
カナダのマックマスター大学(McMaster University)は、音楽学習が子供の発達に与える影響についての研究結果を発表しています。
ここでは、代表的な研究をいくつか紹介します。
音楽が赤ちゃんの脳の発達に影響を与える
研究の対象は、発達段階の似ている乳児期の赤ちゃんです。
研究方法は、次のとおりです。
- 赤ちゃんと親を2つの組に分ける
- 1つ目の組は、親子が童謡に振り付けをつけて踊ったり、楽器を演奏したりする(音楽を学習する)
- 2つ目の組は、スピーカーから流れる音楽を聴きながら、親子でおもちゃを使って遊ぶ(音楽を聴くだけ)
- 2つの組の赤ちゃんの前でピアノを弾き、譜面どおりに弾いた場合と、音程を外して弾いた場合の赤ちゃんの反応を見る
この研究の結果、1つ目の組(音楽を学習した組)は音程を外した演奏に反応する一方で、2つ目の組(音楽を学習していない組)は反応しないことが分かりました。
つまり、音楽を学習した赤ちゃんと学習しなかった赤ちゃんでは、音楽に対する脳の反応が異なっていることが分かったのです。
また、1つ目の組の赤ちゃんは、2つ目の組の赤ちゃんよりも高い社会性やコミュニケーション能力を発揮したことも報告されています。
例えば、表情が豊か、思い通りいかなくてもイライラしない、手を振ってバイバイする、取ってほしいものを指差すといった結果が得られたという記載があります。
音楽やダンスが赤ちゃんの社会的能力を向上させる
対象は、発達段階の似ている乳児期の赤ちゃんです。
方法は、次のとおりです。
- 研究者側が2人1組になる
- 音楽をかけ、各組の1人が赤ちゃんを抱っこして一緒に身体を上下に揺らし、もう1人は赤ちゃんと向き合って、赤ちゃんの目の前で身体を揺らす
- テスト対象の赤ちゃんグループは、赤ちゃんを抱きかかえた人と、向かい合った人が、同じリズムで身体を上下に揺らす
- もう一つのグループは、赤ちゃんを抱きかかえた人と、向かい合った人が、異なるリズムで身体を揺らす
- 音楽が終った後、赤ちゃんに向かい合っていた人がわざと物を落とし、赤ちゃんが拾ってくれるかどうか調べる
この研究では、同じリズムで身体を動かした赤ちゃんは、異なるリズムで動いた赤ちゃんに比べ、大人が落とした物を拾う率が約20%高いという結果になりました。
つまり、音楽やダンスが社会的行動(思いやり)に影響を与えることが分かったのです。
音楽学習が子供の脳の発達を促す
対象は、4歳から6歳の子供(音楽学習経験が1年以上の子供と、音楽学習経験のない子供)です。
研究方法は、音楽学習経験のある子供と、音楽学習経験のない子供に、記憶力を調べるテストを受けさせるというものです。
研究の結果、音楽学習経験のある子供の方が、成績が良くなることが分かりました。
もちろん、音楽だけがテスト結果に影響したとは言い切れませんが、音楽が脳の発達に影響する可能性を示唆する結果となっています。
音楽が赤ちゃんや子供の脳に与える影響
以上の研究結果を踏まえると、現時点で言えるのは2つです。
まず、モーツァルト効果のように「音楽を聴くだけで頭が良くなる」という考えは否定されているということです。
もう一つは、音楽が脳に影響を与え、社会性や記憶力などを向上させる可能性があるということです。
音楽が脳に与える影響については、世界各地で研究が行われているので、今後も新しい知見が登場したり、現在の知見が否定されたりする可能性があります。
赤ちゃんや子供に音楽を聞かせる効果的な方法
次に、音楽を聴かせる方法について紹介します。
赤ちゃんや子供に音楽を聞かせるのに一番効果的なのは、睡眠前です。
音楽を聴かせる時のポイントは、次のとおりです。
- 部屋を暗くする
- 毎日同じ音楽を聞かせる
- 穏やかな曲や環境音を聴かせる
- 赤ちゃんが寝る前に音楽を止める
- パパママが歌ってあげる
部屋を暗くして、毎日同じ音楽を流すことで、子供は「あ、もう寝る時間なんだ。」と理解して眠る準備をします。
また、暗くなると、目から入る情報が一気に減って耳の感覚が敏感になるので、音楽をしっかり聞くことができるようになります。
聴かせる音楽は、穏やかなクラシックや環境音など調和のとれた音楽が良いと言われています。
ただし、寝るまで音楽をかけていると、音楽がないと眠れなくなってしまうリスクがあるため、寝る少し前に止めることをおすすめします。
CDでも良いのですが、パパママが子守歌を歌ってあげると、赤ちゃんはより安心感を抱くことができますし、「歌う」ことを少しずつ学習していきます。
時間がある日は、赤ちゃんに寄り添って子守歌を聴かせてあげましょう。
赤ちゃんや子供が好む音楽
クラシックや環境音など、調和がとれて穏やかな音楽を好むことが多いと言われています。
例えば、ピアノ、オルゴール、オカリナなど穏やかな音色の楽器で演奏された音楽です。
ただし、一人ひとり性格や感性、生活環境などが異なるので一概には言えません。
色々な音楽を聴かせ、赤ちゃんの反応を見ながら好みの音楽を探り当ててあげましょう。
なお、赤ちゃんが好む音楽でも、音量を上げすぎると聴力障害の原因になるので気を付けましょう。
まとめ
音楽と脳の関係や、音楽を聴かせる方法について紹介しました。
音楽については、紹介したモーツァルト効果以外にも、誤った情報や古い情報がたくさん出回っているので、怪しいと思ったらネット以外で調べてみることをおすすめします。