ものすごい喧騒の中にいるのに、特定の音や声を聞き分けることができた経験はありませんか?
また、人ごみの中から苦労せず家族や友人の姿を見つけたことはどうですか?
人は、大人でも子どもでも、無数にある情報の中から特定の情報だけを選択して注意を向けています。
心理学の世界では、こうしたことを選択的注意と呼んでいます。
選択的注意は、私たちが日常生活を送る上で大切な機能ですが、中には適切な情報を上手く選択して注意を向けられない子どももいます。
この記事では、選択的注意の概要と聴覚の具体例(カクテルパーティー効果)、選択的注意の研究、人の注意の種類、について紹介します。
選択的注意とは
選択的注意とは、人を取り巻く膨大な情報の中から、重要だと思う情報だけを選択して注意を向けることです。
英語では「selective attention」と表記し、日本語では選択的注意と訳されています。
例えば、人ごみの中で特定の人を見つけたり、特定の人の声を聞き分けたりするのが選択的注意です。
現代社会は情報に溢れているので、五感等から入ってくるすべての情報を認知して注意・処理することは現実的に不可能です。
また、情報の取捨選択ができないと、他人とコミュニケーションをとったり、優先順位をつけて物事に取り組んだりすることも困難です。
選択的注意が適切に機能することで、自分にとって必要な情報だけを取り入れることができるからこそ、処理しきれない情報量に圧倒されたり、不要な情報に気を取られたりせず生活できるのです。
選択的注意の代表的なものが、聴覚に関する選択的注意である「カクテルパーティー効果」です。
カクテルパーティー効果とは
カクテルパーティー効果とは、音声に関する選択的注意(選択的聴取)のことです。
例えば、人ごみの中でも、誰かと真剣に話している時は、周りの喧騒を気にせず話しつづけることができるはずです。
また、ふと近くにいる男女の会話に注意を向けると、今度は、それまで話していた人の声よりも男女の会話の方が自然に耳に入ってくるようになります。
こうした、たくさんの人がそれぞれバラバラに会話するような場所でも、話している相手の言葉、興味のある相手の言葉、自分の名前や自分に関することについては、無理せず聞き取れることがカクテルパーティー効果です。
カクテルパーティー効果から、人は、耳から入ってくる無数の聴覚情報を脳の中で処理し、その人にとって重要な聴覚情報を再構築していると考えられています。
つまり、周囲の音声は、いったん聴覚情報として全て脳内に届くものの、脳内で取捨選択されて一部のみ認知されるということです。
- カクテルパーティー:カクテル(酒類)と軽食がメインの立食形式のパーティー
選択的注意の実験
選択的注意の実験としては、アメリカ合衆国にあるハーバード大学が行ったパスの回数を数える実験が有名です。
実験の内容の手順は、以下のとおりです。
- 被験者に白いシャツを着たチームがバスケットボールをパスした回数を数えるよう指示する
- 学生6人(白いシャツを着たチーム3人と黒いシャツを着たチーム3人が)がバスケットボールをパスする動画を被験者に視聴させる。
- 被験者に「白いシャツを着たチームがパスした回数は何回か。」と質問する。
- 被験者に「動画には何か気になるものが映っていなかったか。」と質問する。
この実験では、まず、白いシャツを着たチームの動きに注意を集中されられるか否か(選択的注意が働くか否か)を確認することができます。
パスの回数を正しく答えることができれば、選択的注意が働いているということです。
また、白いシャツを着たチームの動き意外にも注意を向けられるか否かを確認することもできます。
実は、動画には、学生6人がパスを繰り返す中を黒い動物の着ぐるみが横切るシーンが映っています。
4.の質問は、着ぐるみが横切ったことに注意を向けられたか否かを確認するためのもの、つまり、指示された内容以外にも注意がむけられたかどうかを確認するために出される質問です。
この動画は、youtubeで「selective attention test」と検索すると視聴することができます。
小学生くらいでもチャレンジできるレベルなので、興味がある人は子どもと一緒に視聴してみてください。
選択的注意の研究
選択的注意は、心理学者のチェリーの研究を皮切りに、いくつもの研究が重ねられてきました。
代表的な研究について見ておきましょう。
チェリーの両耳分離聴の実験
チェリーは、被験者に片方の耳に注意を向けさせて聞こえた言葉を復唱させた後、もう片方の耳から聞こえた言葉を復唱させるという実験を行いました(両耳分離聴の実験)。
そして、被験者が、注意を向けさせた耳から聞こえた言葉は復唱できるのに、もう片方の耳から聞こえた内容はほとんど復唱できないという実験結果から、注意の向けられなかった聴覚情報はフィルターにかかって失われると考えました。
ブロードベントのフィルターモデル
その後、心理学者のブロードベントは、情報処理の初期に、次の段階で処理される情報を選択するフィルターがあり、フィルターを通過した情報のみ高次の処理が行われる(認知されるなど)という考えを示しました(フィルターモデル)。
トリーズマンの減衰モデル
一方で、トリーズマンは、注意の向けられていない情報は、フィルターによって失われるのではなく、弱められているだけだという考え方を示しています(減衰モデル)。
ドイチェの最終選択モデル
また、ドイチェは、全ての情報が高次な処理までされており、フィルターは処理から反応までの間にあって、情報の重要度に応じて反応が決まるという考え方が示しています(最終選択モデル)。
ラヴィの負荷理論
さらに、ラヴィは、情報量が少ない状況では注意を向けていない情報でも高次の処理が行われるものの、情報量が多い状況では注意を向けている情報のみ高次の処理が行われるという結果を発表しています(負荷理論)。
注意の種類:トップダウンとボトムアップ
最後に、人の注意の種類についても触れておきます。
人の注意には、トップダウンの注意とボトムアップの注意があります。
トップダウンの注意とは、知識や概念などに基づいて、特定の情報に選択的に注意を向けることで、選択的注意と同じことです。
ボトムアップの注意とは、他と違って目立つ情報に注意を向けることです。
トップダウンとボトムアップは、情報処理の流れを表した言葉です。
- トップダウン:脳の高次の領野(意識や思考などを司る)が低次の領野(単純な情報処理を司る)に処理する情報を指示する
- ボトムアップ:脳の低次の領野が高次の領野に処理すべき情報を示す
人は、日常生活において、トップダウンとボトムアップという2つの方法で情報処理を行うことで、物事に対する理解や記憶を促進しているのです。
まとめ
選択的注意について紹介しました。
努力しても学業成績が伸びない、授業中に上手く集中できないといった場合、選択的注意が上手く働いていない可能性があります。
また、子供の学習を考える上では、トップダウンとボトムアップのバランスを考えることが大切になってきます。
選択的注意やトップダウン・ボトムアップは、教育業界でも注目を集めており、知育の選択でも役に立つので、この記事に書いた概論的な知識は持っておくと良いでしょう。