背中トントンは、赤ちゃんを寝かしつける方法としてよく知られたテクニックの一つです。
布団の上に赤ちゃんを寝かせて背中をトントン、赤ちゃんを抱っこして背中をトントン、背中以外にもお腹や胸、お尻をトントンするなどやり方は様々ですが、どの家庭でも赤ちゃんの寝かしつけに活用しているでしょう。
赤ちゃんの背中をトントンし続けているうちに、赤ちゃんが好むトントンの強さ、速さ、リズムが分かってきて、寝かしつけもスムースになっていきます。
しかし、初めて赤ちゃんを育てるお父さんお母さんは、「トントンが強すぎて赤ちゃんの身体に負担をかけていないだろうか。」、「どこをトントンすれば良いのか。」、「背中トントンと言うけれど、背中以外はトントンしたらダメなんだろうか。」といった不安や悩みを抱えていることが少なくありません。
また、いくらトントンしても赤ちゃんを寝かしつけられず、疲れ果ててしまうことも珍しいことではありません。
この記事では、背中トントンで赤ちゃんを寝かしつけるやり方について紹介します。
背中トントンとは
背中トントンとは、赤ちゃんの背中を指や手でトントンと軽く叩く、寝かしつけのテクニックです。
赤ちゃんは、昼夜問わずなかなか寝つけずよくぐずりますが、背中をトントンするとすんなり眠ってくれることが多いものです。
背中トントンが赤ちゃんの寝かしつけに効果を発揮する理由
背中トントンで赤ちゃんが眠るのは、馴化(じゅんか)という現象によるものです。
馴化とは
馴化とは、特定の刺激を繰り返し受け続けるうちに、その刺激に対する反応が少しずつ薄れていくという現象です。
馴化は、心理学の世界で使われている単語で、日常的に使う単語で言い換えるとすれば「慣れ」や「順応」が近いでしょう。
馴化には、以下の特徴があります。
- 強い刺激よりも弱い刺激の方が起こりやすい
- 複雑な刺激よりも単調な刺激の方が起こりやすい
- 馴化した刺激以外の刺激に対する意識がが弱まる
- ある刺激に馴化した状態で異なる刺激を与えると反応する(脱馴化)
通常、人は、周囲のさまざまな刺激に注意を払うことで、眠気を感じずに起きているものです。
しかし、特定の刺激を繰り返し提示されると、①その刺激に意識が集中し、②他の刺激に対して意識が向きにくくなる上、③馴化によって特定の刺激にも反応しなくなります。
その結果、眠気を阻害する刺激を感じなくなり、眠たくなってくるのです。
例えば、私たちは、電車に長時間乗っていると眠たくなることがありますが、これも馴化によって説明することができます。
- 電車のガタンゴトンという音や揺れに意識が集中する
- 他の刺激が気にならなくなる
- 電車の音や揺れに対して馴化が起こり、気にならなくなる
- 電車の音や揺れも、他の刺激も気にならなくなり、眠気を感じる
馴化と背中トントン
以上のことを踏まえると、赤ちゃんが背中トントンで眠るまでの流れは、以下のように説明することができます。
- 赤ちゃんは、背中をトントンされる刺激に意識を集中させる
- 他の刺激が気にならなくなる
- 背中トントンに対する馴化が起こり、気にならなくなる
- 背中トントンも、他の刺激も気にならなくなり(眠気を阻害する刺激に反応しなくなり)、眠気を感じる
つまり、背中トントンは、赤ちゃんがそちらに意識を集中させて他の刺激を気にしなくなり、その後、トントンの刺激も気にしなくなって眠りに落ちるというものです。
なお、背中トントンで赤ちゃんが眠る理由として、胎内で聞いていたお母さんの心音のリズムに似ているからだと記載している書籍やホームページもありますが、それを裏付ける証拠を示した研究は見当たりません。
背中トントンのやり方のコツ
初めて赤ちゃんを育てるお父さんお母さんは、背中トントンの強さ、リズム、トントンする場所などが分からず困ってしまうことが少なくありません。
そこで、背中トントンのやり方とコツをいくつか紹介します。
ただし、背中トントンの好みは個人差が大きいので、最終的には赤ちゃんの反応を見ながらあれこれ試行錯誤し、赤ちゃんに合った背中トントンを身につけていくことになります。
背中トントンのやり方のコツ1:トントンは単調なリズムを保つ
背中トントンは、単調なリズムであるほど早く馴化します。
つまり、「トン、トン、トン、トン・・・」という単調なリズムをひたすら続けるのが、寝かしつけには一番効果があります。
背中トントンをしてあげる親としては、単調なリズムに飽きてしまい、つい三・三・七拍子や好きな歌のフレーズを刻みたくなりますが、馴化を遅らせるだけでなく、赤ちゃんの目を覚ましてしまうことになるので避けましょう。
背中トントンのやり方のコツ2:トントンの強さは赤ちゃんに振動が伝わるくらい
初めて赤ちゃんの子育てをする場合、抱っこするのもおっかなびっくりで、背中トントンもつい優しくゆっくりしてしまうものです。
しかし、背中トントンは「強め」が基本です。
授乳後に赤ちゃんの背中を叩いてゲップさせますが、それよりも少し弱いくらいで、赤ちゃんの身体に振動が伝わるくらいの強さでトントンします。
赤ちゃんがウトウトし始めたら、少しずつトントンの強さを緩めていきましょう。
背中トントンのやり方のコツ3:長時間の背中トントンに耐えられる姿勢
背中トントンは、赤ちゃんの寝かしつけに効果的なテクニックですが、トントンが馴化するまではなかなか寝てくれませんし、馴化した後もリズムや強さが乱れると赤ちゃんが起きてしまいます。
つまり、赤ちゃんが寝付くまでかなりの時間を要することを想定しておく必要があるのです。
そのため、少なくとも1時間くらいは背中トントンを続けられる姿勢を見つけておくことが重要になります。
背中トントンのやり方のコツ4:赤ちゃんの好みに合わせる
赤ちゃんは、ミルクの種類、タオルの肌触り、抱っこされる向きや角度など、生まれたての頃から一人ひとり好みが違います。
背中トントンのリズムや強さについても好みがあり、以下に赤ちゃんの好みを見つけるかが、効率よく寝かしつけるための一番のポイントになります。
最初は、親がちょうど良いと感じるリズムや強さでトントンし、赤ちゃんの寝つきが悪いようならこまめに変えてみます。
こればかりは「経験がものをいう」ので、とにかく数をこなすしかありませんが、めげずに頑張りましょう。
なお、お母さんの心音を意識してトントンすることを勧めている書籍やホームページがありますが、根拠は見当たりません。
背中トントンのやり方のコツ5:色々な人が背中トントンする
例えば、いつもお母さんが背中トントンして赤ちゃんを寝かしつけていると、お父さんや他の人が背中トントンしても寝てくれなくなることがあります。
お母さんの手のぬくもりやトントンのリズム・強さに慣れてしまうためです。
そのため、赤ちゃんが低月齢の頃から、なるべく多くの人が背中トントンで寝かしつけるようにしましょう。
また、「これくらいの強さでトントンしたら早く寝たよ。」、「グーでトントンしたら気持ちよさそうだったよ。」などと情報交換し、赤ちゃんの好みを共有し、人が変わっても同じようなトントンができるようにしておくことも大切です。
背中トントンのやり方のコツ6:赤ちゃんが嫌がったら止める
背中トントンは、赤ちゃんを寝かしつける有効な方法ですが、中にはトントンが嫌いな赤ちゃんもいます。
また、いつもはトントンしたら寝てくれるのに、たまに嫌がる赤ちゃんもいます。
嫌がっているのに背中トントンを続けると赤ちゃんのがストレスを感じてしまうので、嫌がったらすぐに止め、他の方法で寝かしつけるようにしましょう。
いつもはトントンを嫌がらない赤ちゃんが嫌がった場合、体調不良の可能性があるので、体温、外傷、呼吸、食欲などを確認し、必要に応じて小児科を受診させてあげましょう。
お腹トントン、胸トントン、お尻トントン、足トントン
日本では背中トントンが有名ですが、背中だけでなく、お腹、胸、お尻、足などをトントンしてあげるのも、赤ちゃんを寝かしつけには効果があります。
よく知られているのがおへその辺りをトントンするお腹トントン、心臓の辺りをトントンする胸トントン、臀部をトントンするお尻トントン、太ももの辺りをトントンする足トントンです。
低月齢の赤ちゃんは、布団に仰向けに寝かしつけるのでお腹、胸、足をトントンすることが多く、抱っこして寝かしつける時だけ背中やお尻をトントンすることになります。
赤ちゃんが寝返りを打てるようになると、うつ伏せに寝ることが増えるので、背中トントンやお尻トントンで寝かしつける機会が増えていきます。
背中、お腹、胸、お尻、足のどこをトントンするかは、赤ちゃんが寝る向きや好みによって使い分けるもので、どこをトントンするのが一番効果的というのはありません。
ただし、背中をトントンした後でお腹をトントン、続いて胸をトントンというように、トントンする場所を頻繁に変えると赤ちゃんの気が散って寝つかなくなることがあるので、一ヶ所をトントンしてあげるようにしましょう。
まとめ
背中トントンは、赤ちゃんを寝かしつけるための有効なテクニックの一つです。
昔ながらの寝かしつけのテクニックですが、実は、心理学の概念が盛り込まれた優れたものです。
初めて赤ちゃんを育てる人は、強さ、リズム、早さなどが分からず悩むこともありますが、積極的に活用してみましょう。
なお、背中トントンは、幼児期の子供にも活用することができますが、乳児期に比べるとやり方が難しくなっていきます。
子どもが自分の意思をはっきり持つようになるからです。
寝たくない時に背中をトントンすると癇癪を起こすことがありますし、子どもが自分で寝ようとしている時にトントンするとかえって目を覚ましてしまうこともあります。
そのため、幼児期の子供に背中トントンを活用する時は、乳児期以上に子供の好みを把握し、やり方に工夫が必要になります。