スチューデントアパシー(学生の無気力症候群)という言葉を知っていますか?
言葉自体は数十年前に登場したのですが、日本において使われるようになってきたのは最近のことです。
五月病やバーンアウト(燃え尽き症候群)と一緒に紹介されたり、それらと混同されたりすることが多い言葉で、学生の子供を持つ親としては知っておきたい言葉の一つです。
この記事では、スチューデントアパシー(学生の無気力症候群)の概要、原因、対策、治療について紹介します。
スチューデントアパシー(学生の無気力症候群)とは
スチューデントアパシーとは、学生が「学業」に対して無気力・無関心に陥り、その状態が長期間継続している状態のことです。
通常、大学生(現役合格した場合は18歳~22歳頃)に見られる無気力無関心が継続している状態を表す言葉として使用されています。
スチューデントアパシーに陥った学生は、大学の講義などに失望や挫折を感じて学業へのモチベーションを喪失し、勉強を止めて講義の欠席を繰り返す一方で、アルバイトや部活動など学業以外の活動には精を出すことが多いものです。
ただし、症状が重い場合は、家に引きこもってゲーム、ネット、音楽、読書などに没頭し、その状態が継続して留年を繰り返したり、就職もせず親のすねをかじって生活し続けようとしたりすることもあります。
学生にとっての学業は、目標や進路、自尊心などと密接に結びついているため、スチューデントアパシーに陥ると自分の存在意義や将来に対する前向きな展望まで見失い、いわゆるアイデンティティの拡散の危機に直面することも少なくありません。
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学業に失望したり挫折したりして、一時的に学業から距離を取ろうとすることは、珍しいことではありません。
スチューデントアパシーの問題は、学業に対する無気力・無関心が継続することによって、周囲との学力差がついてますます学業を避けるようになり、留年や退学に追い込まれるリスクが高いことです。
また、進路も定まらず、一人前の社会人として世の中に出て行くことも困難もしくは大幅に遅れるリスクもあります。
スチューデントアパシーになりやすい人
スチューデントアパシーになりやすい人の特徴は、以下のとおりです。
- 男性(女性より男性の方がなりやすいという実務家レベルの実感)
- 几帳面
- 完璧主義
- 失敗を恐れ、チャレンジ精神が乏しい
- 勝ち負けを避けようとする
ただし、こうした特徴を持つ人が必ずスチューデントアパシーに陥るわけではなく、様々な要素が複合的に絡み合って症状が現れると考えられています。
スチューデントアパシーは気づきにくい
スチューデントアパシーの特徴として、気づきにくいことが挙げられます。
学業には無気力・無関心になりますが、その他のことには精力的に取り組んでいることが多く、一見すると症状が出る前よりも充実した生活を送っているように思えることもあります。
また、本人としても、学業以外のことに打ち込んで無意識的に学業から目をそらしており、症状に気づきにくいものです。
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スチューデントアパシーと五月病、バーンアウト(燃え尽き症候群)との違い
スチューデントアパシーと混同されやすい言葉に、五月病とバーンアウト(燃え尽き症候群)があります。
スチューデントアパシーと五月病の違い
五月病とは、大学に入学して間もない学生や、就職して間もない新入社員が、新しい環境にうまく適応できないことを原因とする精神的な症状のことです。
新しい環境へ適応したいという気持ちや、適応しようというモチベーションがあるにも関わらず、うまく環境に適応できずにうつ症状などが現れます。
具体的な症状としては、食欲がなくなる、眠れなくなる、勉強や仕事に集中できない、めまいや動悸がするといった症状が挙げられます。
五月のゴールデンウィーク前後に見られがちな症状であることから「五月病」と呼ばれており、通常は1~2ヶ月程度で環境に慣れて、自然に症状が解消していきます。
ただし、社会生活に支障を及ぼす症状が継続し、うつ病や適応障害と診断されることもあります。
五月病は、スチューデントアパシーと似た症状が多く混同されがちですが、症状が一過性であることが多いことや、学業に限らず新しい環境に馴染めず起こる症状であること、学生に限らず社会人なども含むところが違います。
スチューデントアパシーとバーンアウト(燃え尽き症候群)の違い
バーンアウトとは、ストレスにさらされながら、仕事や勉強に精力的かつ献身的に取り組んでいた人が、突然、意欲を喪失して仕事や勉強が手につかなくなり、一般的な社会生活を送ることも困難になる現象です。
英語では「burn out」と表記し、日本ではをそのままバーンアウトと言ったり、燃え尽き症候群と訳されたりします。
引用:知育ノート
具体的な症状としては、出勤日の朝だけ起きられなくなる、玄関から踏み出せない、突然勉強や仕事を辞める、打ち込んできたことを拒絶する、慢性的な焦燥感などがあります。
バーンアウト(燃え尽き症候群)は、スチューデントアパシーと似た症状が多いですが、発症時期が学生に限定されておらず、無気力・無関心の対象が学業に限定されていないところが違います。
スチューデントアパシーの原因
スチューデントアパシーの原因は、一つに限定されるものではありません。
個人の性格や気質、学業に対する期待と現実とのギャップ、学業への挫折、周囲の期待と自身の学力のかい離との直面化といった要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。
スチューデントアパシーの無気力を克服するには
スチューデントアパシーを根治させる方法は確立されていません。
現状、治療として有効とされているのが、精神科医や心療内科医、心理カウンセラーによるカウンセリングです。
カウンセリングでは、学業に無気力・無関心になった原因や今後学業とどう向き合っていくかをよく考えながら話合い、自分の中で学業との付き合い方に折り合いをつけていくことになります。
一度無気力、無関心になったものと向き合うのは、新しいことを始めたり、積み重ねてきたものをさらに積み重ねたりするよりもしんどい作業です。
しかし、自分自身がその作業を丁寧に行うことでしか、スチューデントアパシーから脱することはできません。
まとめ
スチューデントアパシー(学生の無気力症候群)は、日本だけでなく世界的に見ても増加傾向にあると言われています。
原因はいくつも考えられますが、例えば、①激しい受験戦争や点数で評価される教育体制の下で成長し、「何がしたいか。」ではなく「どこの大学に入りたいか。」を考えて進学を果たした結果、次の目標を立てられずにいる、②大人の指示で受け身的に学業と向き合ってきた結果、大学に入って好きなことを学べと言われても何をしてよいか分からないといったことはよく聞かれるところです。
スチューデントアパシーは、学業に対する無気力・無関心の問題もさることながら、その後の進路や生活に影響を及ぼすリスクが高くなります。
そのため、子どもにはなるべくスチューデントアパシーに陥らせないように過ごさせたいものです。
もしも子供がスチューデントアパシーに陥ったら、早めにカウンセリングを受けさせるなどして脱却を図らせてあげましょう。
子供が大学生にもなると、親としては子供の自律性や主体性を尊重し、一歩引いたところから見守る関わりが多くなるものです。
しかし、スチューデントアパシーの症状は本人には気づきにくいものなので、親として指摘し、対応してあげることが大切になります。